LOGIN「なあ聞いたか? 『彷徨う鎧』の正体を突き止めたの、A組の一年らしいぞ」
「セリウスってやつが、鎧に真っ先に近づいて解体したんだって!」 「おお、すげぇ。肝が据わってるな」その会話が自分のことだと気づき、私は思わず足を止める。
――ちょっと待って。あれ、そんな武勇伝みたいな話じゃなかったはず……! 頬が熱くなるのを隠そうと、うつむいて歩を早めた。「おーい! 噂の勇者さまじゃないか!」
背中をばん、と叩かれて、思わず前のめりになりかける。 赤毛のリディア・マルセルだ。 「ほんとにあの鎧に飛び込んでったんだろ? すげぇな! 俺なら腰抜かしてたね!」「鎧に飛び込んではいないって……。ただ、突然動かなくなったから兜を外して、中は確かめたけど。……ちょ、ちょっと誇張されてると思うよ」
私は苦笑いする。そこへ、長身のオルフェ・ダランが腕を組んで現れた。
「度胸があるのは悪くない。だが、敵の正体も分からぬまま不用意に近づくのは無謀だ」 ――そうはいっても、絶対オルフェだって同じことをしたと思う。はっきり言えば、オルフェだけには言われたくない。言わないけど。淡々とした声だが、その眼差しには真剣な評価の光が宿っている。
「次からは俺を呼べ。大剣で一刀両断してやる」
……やっぱり。オルフェならやりそうだな。度胸ありそうだし。てか、度胸どころか無鉄砲の塊。私のは話が一人歩きしてるだけ。……実際三人の中で一番度胸がなかったのは私だ。
「は、はあ……ありがとうございます」「ふん、やはり注目を集めているな」
すらりとした黒髪の少年、レオン・フィオリが横から口を挟んだ。 「ただの悪戯にしても、冷静に仕組みを見抜いたのは評価に値する。……セリウス、君は思ったより観察眼があるな」仕組みを見抜いたのは、アラン。私じゃない。
「いや、あれは……アランが鎧を押さえてくれたおかげで……」
私はしどろもどろになり、視線を横へそらす。「セリウスが謙遜してる!」
リディアが大笑いし、周囲のクラスメイトも口々に囃し立てた。「彷徨う鎧退治の英雄だ!」
「新入りのくせに度胸あるな!」 「よっ、お化け鎧ハンター!」……やめて。本当は腰が引けてたんだから。
ますます顔を赤くし、頭を抱えた。――そのとき。
「やれやれ、人気者ね」 背後から、例の絶世の美女(?)フィオナがすまして歩み寄ってきた。 制服姿も美しい。フィオナの方が男装の麗人に見えるのはなぜだ。別にいいけど。 「でも忘れないで。セリウスが注目されるってことは、セリウスの隣にいる私も注目されるってことよ?」「なんでそうなるんだ!」
アランが即座に突っ込む。「ふふ、だって『彷徨う鎧調査隊』は三人だったんだもの。セリウスひとりじゃない。……ね?」
フィオナはウインクして、ひらひらと手を振った。クラスの笑い声と歓声に包まれながら、私は複雑な気持ちで胸を押さえた。
「『彷徨う鎧』が先輩のいたずらだったなんて、まったくビビって損したぜ」
「じゃあ、『呪われた肖像画』も、いたずらなのかなあ?」 「何々? 『呪われた肖像画』って?」 「学園の肖像画が血の涙を流すってやつさ」つい先ほどまで「彷徨う鎧」の騒ぎで皆の注目を浴び、ようやく収まったと思った矢先に、また新しい話題が飛び出してきた。クラスのみんながわいわい騒ぐ。最初はただの怪談話に盛り上がっているように見えたが、どこか空気の端に不穏なざわめきが混じっていた。
「学園の肖像画が血の涙を流す?」
リディアが目を丸くした。普段の皮肉屋な表情ではなく、純粋な驚きの色を浮かべている。 「それ、本気で言ってるのか?」「俺は知らん。けど、寮の三階の廊下に飾ってある、創立者の肖像だってさ」
「夜中に見張りの先輩が通りかかったとき、目の下から赤いしみが流れ落ちてたんだと」「うへぇ……」
リディアは腕を組み、わざと肩をすくめてみせた。 「鎧に続いて肖像画か。『七不思議』が次々出てくるな」「くだらん話だ」
アランは即座に切り捨てた。声に迷いはない。 「学舎の怪談なんて、大抵は人の悪戯だ」言葉自体は正論のはずなのに、彼の表情がわずかに険しいのを私は見逃さなかった。アランでさえ完全に冗談と片づけきれていないのだろうか。
「まあまあ、そんなに即断しないで」
フィオナがにやりと笑い、扇子で口元を隠す。 「赤い涙が悪戯なのか、本物の血なのか……気にならなくて?」「気になるって……」
セリウスはごくりと唾を飲み込んだ。 「だってもし本物だったら、それこそ大事件じゃ……」自分でも余計な一言を言ってしまったとわかっていた。途端にクラスの視線がこちらに集中する。
「セリウスはまた真に受けるんだな」
アランがため息をついた。だが、その横顔はどこか苦笑に逃げているようにも見えた「でもさ、面白そうじゃん!」
リディアが目を輝かせる。 「『彷徨う鎧』も結局、行ってみて正体を暴いたんだし。今回も俺らで確かめてみようよ!」『彷徨う鎧』の時、リディアはいなかったよね。
教室の空気が、まるで冒険の提案を受けた少年少女の群れのように、一気に熱を帯びる。
「おやおや、知らないうちに、チームのメンバーが一人増えたわね」
フィオナは楽しそうに両手を打った。 「――セリウス、今度も私と一緒に『呪われた肖像画』を見に行きましょう? 怖かったら、手を握ってあげるから」「だから怖がってないってば!」
私は必死に否定するが、クラスのあちこちからクスクス笑い声が上がった。冷やかし半分、期待半分。もはや私の抗議など耳に入っていない。「いいぞ! 次は『肖像画の謎』を解いてやる!」
「セリウス、頼りにしてるぞ!」 「お化けハンター第二幕だな!」すっかり「怪談処理班」のように扱われてしまった私は、机に額を押しつけるようにして深いため息をついた。
(……なんでこうなるんだ) 夜。 月明かりに照らされた廊下は、しんと静まり返っていた。 セリウス、アラン、フィオナの三人は、問題の肖像画の前に立っている。「これが……『呪われた肖像画』」
セリウスは額縁を見上げた。 歴代校長の一人、厳めしい顔の老人の肖像が壁にかけられている。 その眼差しはどこか鋭く、闇の中で見ていると不気味さが増していた。「おお……何もしてないのに、今にも泣き出しそうに見える」
フィオナがわざと震えた声を出す。 「ねえセリウス、もう手を握っててもいい?」「だ、だから怖くないって言ってるだろ!」
思わず一歩下がり、頬を赤くした。 そんな姿を見て、フィオナはくすりと笑う。「ふふ、でも耳まで真っ赤よ?」
「ち、ちが……!」
慌てる私の横で、アランが深いため息をついた。 「また噂を真に受けて……。今度も、どうせ誰かの悪戯だ」 そう言いつつも、アランの手は自然と剣の柄に添えられている。廊下を吹き抜ける風が、カーテンを揺らした。
その影が、まるで肖像の老人が微笑んだかのように見えて、思わず身をすくめる。(やっぱり怖い……! でも、アランやフィオナの前で臆病だと思われたくないし……!)
「おや?」
フィオナが声を上げ、額縁の下を指差した。と、その瞬間。
ぽたり。赤い滴が、肖像の頬をつたった。
「ひっ!」
フィオナがアランの腕にしがみつく。 「で、出た! 血の涙よ!」「なっ……!」
私も思わず身を乗り出す。 蝋燭の明かりに照らされ、確かに赤い雫が肖像の眼の下から垂れている。 絵の具とも違う、鮮やかな赤。 「本当に……流れてる……!」「バカな……」
アランが低く唸り、目を細める。 「近づくな、セリウス!」だが――私はもう足を踏み出していた。
心臓が跳ね上がっているのに、不思議と恐怖より先に“違和感”の方が強く胸に残ったのだ。(この赤……血にしては妙に粘り気がある。どちらかといえば……果汁? 葡萄酒の色に近い……!)
額縁の縁を凝視すると、薄暗い光の中に細い筋が垂れているのが見えた。
「やっぱり……!」
思わず声が出る。「え? 何?」
フィオナが目を丸くする。私は背伸びをして額縁の上に手を伸ばした。
指先に触れたのは――小さな瓶だった。 蝋で封じられていたはずが、すでに溶け崩れ、中の赤い液体がじわじわと漏れ出している。「これ……! 葡萄酒です!」
私は瓶を掲げて振り返った。 「蝋で封じておいて、時間が経つと蝋が溶けて、液がちょうどこの位置から滴るようになってたんです!」「なっ……!」
アランの瞳が見開かれる。 「つまり……計算された仕掛けってことか」「そう! 夜中の、この時間を狙って――肖像画が血の涙を流すように細工されてたんだ!」
私は胸を張り、誇らしげに掲げた瓶を振ってみせた。静まり返る廊下に、フィオナの拍手が高らかに響く。
「さすがセリウス! 可愛い顔して、頭は冴えてるじゃない」「か、可愛いって言うな!」
私は耳まで真っ赤にし、慌てて襟元を正した。男装をしていることを思い出し、余計に居心地が悪い。アランは苦笑を浮かべながらも頷いた。
「……まあ、今回はセリウスの観察眼のおかげだな。正体を突き止めたのは見事だ」そのとき。
廊下の奥から、ひそひそ声と忍び笑いが聞こえてきた。「おい、マジで気づかれたぞ」
「セリウスって一年、ただの坊やじゃねえな」「先輩……!」
アランが鋭く睨む。 姿を現したのは、三年生らしき上級生たちだった。制服の着崩し方や不遜な態度から、ふだんから素行の悪さで知られている連中だと一目でわかる。「いやぁ~、参った参った。ちょっと脅かしてやろうと思ったんだが……」
ひとりが頭をかきながら笑う。 「まさか新入生にトリックを暴かれるとはな」私は一歩前に進み、瓶を掲げて胸を張った。
「いたずらは結構ですが、夜中に寮を騒がせるのは危険です。……やめてください!」凛とした声に、廊下の空気が張り詰める。
思いがけぬ迫力に、一瞬だけ上級生たちが言葉を失った。 小柄な体に宿る真っ直ぐな気迫は、男装の裡に隠された芯の強さを際立たせていた。――ヴァルロワ学舎・翌夜。 その夜、ヴァルロワ学舎は静まり返っていた。 昼間の喧噪が嘘のように、校舎の灯りは消え、月光が石畳を淡く照らしている。 だが、誰も知らぬところで、もう一つの授業が始まっていた。「全員、聞こえるか?」 中庭裏の温室跡。セリウスたち《調査班》は通信魔導具を通じて連絡を取り合っていた。 アランの低い声が響く。「今夜の任務は学舎内部の監視記録の確認。帝国スパイが使った出入り経路を洗う。外部と通信している可能性のある教員リストも照合するぞ」「了解」 セリウスが頷き、懐の通信魔導具に手を触れる。 淡い光が灯り、フィオナの通信魔導具がそのデータを受信した。「こっちは南棟の通信回線を解析中。……おかしいわね、通常の魔力波が途切れてる。誰かが意図的に遮断した跡かしら」「遮断?」リディアが眉をひそめる。「誰かが監視を避けたってことかよ」 アランが静かに指示を出す。「フィオナ、解析を続けてくれ。セリウスとリディアは中央棟の研究室を調べてくれ。私とレオンは北棟の倉庫を調べる。オルフェは待機」「了解!」 それぞれが闇に溶けるように散っていく。 風が木々を揺らし、どこか遠くで猫の鳴く声がした。 ──中央棟・研究室前。 セリウスは慎重に扉を押し開けた。 古びた魔導機器と埃の積もった本棚。 誰もいないはずの部屋の奥で、淡い光が瞬いている。「……魔力残留反応。最近、使われた形跡があるな」 リディアが呟き、指先から小さな探査光を放つ。 机の上には、見慣れぬ印章の押された封筒があった。「帝国の……紋章?」 封筒の裏には、鷹の爪を模した紋様が刻まれている。 セリウスが息を呑む。「誰かが、ここで通信を――」 その瞬間、背後の扉が軋んだ。 反射的に剣を抜くセリウス。 だ
夜の王都郊外。 《ヴァルロワ学舎》の外れにひっそりと建つ旧研究塔、表向きは、すでに廃棄指定されて久しい。 だが、その地下には今も稼働中の装置がある――学長ヴァルターが手掛けた「魔導通信石」の試験機。 それこそが、帝国が狙う機密だった。「……静かすぎるな」 塔の影から様子を窺うアランが、低く呟く。 月明かりに照らされた古塔は、まるで眠っているかのように微動だにしない。「警備の巡回もいない。これは逆に不自然ね」 フィオナが目を細め、髪を耳にかけながら呟く。 風が草を揺らし、微かに金属の軋む音が響いた。「アラン、南側の窓が少し開いてます」 レオンが報告する。「何者かがすでに侵入した可能性が高いです」「……いくぞ」 アランの短い号令に、全員が頷いた。 セリウスとオルフェが前に出て、フィオナとリディアが後方から援護。 レオンは塔の外で警戒線を張り、アランが全体の指揮を取る。 塔の扉はすでにこじ開けられていた。 古びた階段を下ると、微かな機械音が聞こえてくる。 それは――通信石の動作音。「下だ。急ごう」 セリウスとオルフェは階段を駆け下り、地下の実験室へ突入した。残りの4人も後に続く。 そこには、漆黒のローブを纏った数人の影がいた。 中央の装置から魔力光が放たれ、転送陣がゆらめいている。「帝国の工作隊か!」 オルフェが叫び、剣を構える。「来たか……!」 スパイの一人が振り返り、セリウスに目を止めた。 それは――中庭で戦った覆面の男だった。 左足を庇うように構えている。「また会ったな、少年」 覆面の下から嗤う声。「せっかく見逃してやったのに。あれで止めていれば良いものを、ここまで知られては仕方ない。死んでもらうしかないようだな。今度は、我らが任務の完遂を邪魔
瞬間、鋭い風圧が頬を掠めた。 覆面のスパイが投げた短剣が、セリウスの耳元を通り抜け、背後の木の幹に深々と突き刺さる。 刃は淡く青い光を帯びていた――毒か、あるいは呪符付きの暗器。 (速い……! こいつ、訓練された暗殺者だ) セリウスは反射的に身を低くし、マントを翻す。 闇の中で、草木が擦れる音と共にもう一つの影が動いた。 風のような足取り。姿を見失ったと思った瞬間、背後に殺気が迫る。「っ――!」 咄嗟に剣を抜き、振り返りざまに受け止めた。 金属がぶつかる乾いた音が夜気を裂き、火花が散った。「やるな……訓練生の剣じゃない」 覆面の男が一歩退き、月光の下で構え直す。 その動きには無駄がない。軍人というより、暗部――影の諜報員のそれだ。「お前……帝国のスパイか」 セリウスの問いに、男は笑った。 「知っているか。なら話が早い。王国の未来はすでに帝国の掌の中だ」 言葉が終わるより早く、男の手首が閃いた。 短剣が三本、扇状に飛ぶ。 セリウスは横跳びでかわし、一瞬の隙を突いて間合いを詰める。「せーい!」 セリウスの横薙ぎを後ずさり、笑いながら男は躱す。 連続技で追い詰めようとするが、男はまるでそれを読んでいたかのように、煙玉を放って視界を奪った。 白い煙が広がり、空気がざらつく。 (視界が……!) 次の瞬間、横腹に衝撃。 蹴りを受け、体が石畳に叩きつけられた。肺の空気が抜ける。「ぐっ……!」 だがセリウスは即座に転がり、剣を構え直した。 その瞳には恐れよりも冷静な光があった。「……いい動きだ。訓練生にしては上出来だな」 スパイが笑いながら近づく。 その足音のリズム――セリウスは気づいた。 (……左足に重心。片膝を少し引いている。前の蹴りで筋を痛めたか) ほんの一瞬の観察をもとに、セリウスは決断した。 敵が踏み
その夜。 学園では創立記念日を祝う晩餐会が開かれていた。 大食堂には煌びやかな灯りが揺れ、教員と上級生たちが談笑の声を上げていた。 壇上には白髪の老学長ヴァルターが立ち、穏やかな笑みを浮かべて杯を掲げる。「諸君、この学舎が百年の歴史を刻めたのも、若き学徒たちの努力あってのことだ。未来を担う者たちに、祝福を――乾杯!」 杯が一斉に掲げられ、拍手と笑いが広がった――その瞬間。 カラン、と音を立てて、老学長の手からグラスが落ちた。 「……学長!?」 次の瞬間、ヴァルターは苦しそうに胸を押さえ、その場に崩れ落ちた。 会場は騒然となり、教師たちが駆け寄る。 「毒か!?」「誰か、医療班を呼べ!」 剣術教官であるアランデル老教士が即座に走り出し、学園医務室から治癒魔法の使い手を呼び寄せる。 やがて、老学長は一命を取り留めた。 しかし意識は戻らず、医務官の診断はこうだった。 「体内からは毒の反応が検出されませんでした。ただし――神経を一時的に麻痺させ、幻覚を引き起こす薬物の接触痕が残っています」 その場にいた全員が息をのむ。「……つまり、飲んだワインには毒がなかったということか」 アランの言葉に、セリウスがグラスを手に取る。 私は慎重に縁に付着物がないか、解析を行った。「……微量の薬反応。これは幻覚毒《イルシオン》です。皮膚に触れるだけで幻覚と麻痺を起こす劇薬。飲まなくてもこうなります」「まさか……グラスの縁に塗られていたってこと?」 リディアが息を呑む。私はゆっくり頷いた。 その時、レオンが小声で言った。 「でも、どうやって? グラスは配膳前に全員分まとめて並べられてたはずでしょう。狙われたのが学長だけなら、特別な細工が必要です……」 私は顎に手をやり考え込む。 (グラスを取り違えず、学長の手元に届くようにするには――配膳係が仕組んだとしか思えない)「……配膳を担当したのは誰?」 アランが問い詰めるように
武闘大会も終わり、落ち着きを取り戻しつつある騎士養成学校《ヴァルロワ学舎》。 セリウスたちは、日々の授業と訓練に戻り、穏やかな学園生活を取り戻していた。 訓練場では木剣の音が響き、魔法演習場には詠唱の声が流れる。あの熱狂的な大会の日々が、もう遠い過去のように感じられるほどだった。「ふぅ……今日はこれで終わりかな」 セリウスが剣を納め、額の汗を拭う。 周囲では、レオンが魔法の制御練習を終え、オルフェは筋トレの締めに腕立てをしていた。「ようやく、静かな日常に戻ったな」 リディアが言うと、オルフェが笑う。 「静かすぎて退屈だな。俺はそろそろ外で暴れてーぜ!」「まったく……君は戦うことしか考えてないのね」 フィオナがため息をつきながらも微笑む。 その穏やかな空気に包まれた訓練場の門前で、突然、軍服を着た伝令の兵が駆け込んできた。「《アラン・リヴィエール》殿、並びにその仲間の方々に通達!」 訓練場に響き渡る声に、生徒たちのざわめきが広がる。「通達?」 アランが首を傾げると、兵士は胸を張って告げた。 「王国軍総司令、ゼルディア将軍閣下より召喚命令がございます! 本日夕刻、王立軍本部にてお待ちとのこと!」 訓練場の空気が一瞬で引き締まる。 ゼルディア将軍――王国軍を束ねる最高司令官であり、王都防衛の英雄。 生徒どころか、地方の騎士ですら直接言葉を交わすことなど滅多にない。だがセリウス達はオークションの一件で、将軍から、後日、王国から依頼が届くだろうと告げられている。「ゼルディア将軍……とうとう来たか!」 リディアが驚きを隠せずに呟く。「なにか……あったのかもしれないね」 レオンの声が低く響く。「この前言ってた王国からの特別任務……ってやつか」 オルフェがわくわくしたように拳を握るが、セリウスは静かに息を吐いた。「とにかく行こう。命令なら従わないわけにはいかない」 アランが、四人を見回していった。
大会の喧騒が過ぎ去って数日。 《ヴァルロワ学舎》の中庭には、ようやく落ち着いた空気が戻っていた。 澄み渡る秋空の下、紅葉がはらりと舞い落ちる。 ベンチの上では、セリウスとリディア、オルフェ、フィオナが昼休みを楽しんでいた。「いや〜、ようやく終わったな。大会。見てるだけでも疲れたぜ」 パンをかじりながら、オルフェが伸びをする。「おまえは一回戦で全力出しすぎたんじゃねーの」 リディアが呆れ顔で言うと、オルフェは苦笑いを浮かべた。「だって相手、めっちゃ剣速速かったんだぜ。油断したら即終了コースだったんだ」 隣で紅茶を飲んでいたフィオナが、静かに笑う。 「でも、見事な戦いぶりでしたわ。観客席でも拍手が起きていましたもの」「お、おう……そ、そうか? あはは。フィオナがいうならそうなんだろう」 褒められて、オルフェは耳まで赤くなる。オルフェは何度も勝ち抜いたフィオナの事を認めているようだ。彼にとっては、強さこそ正義である。 セリウスはその様子を微笑ましく見守りながら、手元の資料を閉じた。 「これで次は、年末の筆記試験か。気が抜けないなー」「セリウスは真面目すぎるなあ。少しは休まないと」 リディアがそう言って、にやりと笑う。 彼の笑みは以前よりも柔らかく、《呪具の持ち込み事件》の緊張感が抜けた今だからこその穏やかさがあった。「でも、事件の時のことを思うと……こうして平和なのが一番ですね」 レオンが目を細めて呟く。「そうだな」 セリウスが頷く。 ほんの数週間前まで、教官が敵国の間者だったなんて信じられないほど、今の学院は穏やかだった。 それでも、誰もその事件を軽んじることはない。 皆、心のどこかに「何かを守るために強くなりたい」という思いを刻みつけていた。「……あ、そうだ!」 オルフェが立ち上がった。 「明日の振り替え休日に、みんなで街に行こうぜ! 大会お疲れ様会ってことで!」「まぁ、悪く







